「鍼灸あん摩博物館」のご紹介
(墨田区認定・小さな博物館)

ご挨拶

「鍼灸あん摩博物館」は、鍼灸・あん摩・漢方などの伝統医学の歴史的資料を公開する博物館で、墨田区認定すみだ・小さな博物館の一つです。

私たちの体には「気」という生命エネルギーが流れています。その道筋を描いた経絡図や、気を調節する治療点である経穴(ツボ)を記した経穴人形を中心に、我が国における伝統医療の歴史を物語る資料や道具を収集し、わかりやすく展示しています。

日本人の健康のみならず生活文化に深く関わってきた伝統医学としての東洋医学、それを支える車の両輪の一つとして、漢方と共に庶民の暮らしに根付いてきたのが「はり・きゅう・あん摩」の治療でした。古来中国より伝来し江戸期に日本独自の発展をとげた、その歴史の奥深さ、面白さをご覧ください。

鍼灸あん摩博物館館長 大浦宏勝

事業説明

杉山和一記念館は、杉山和一総検校を祭神として祭る地である江島杉山神社境内に、2016年4月24日に設立されました。また、この地は江戸時代、杉山流の鍼術・あん摩術を指導伝授する本拠地、「杉山流鍼治講習所」が存在した場所です。この博物館は、杉山検校の業績を広く後世に伝えるとともに、日本の鍼灸あん摩のルーツを探る資料を保存収集し展示公開することを目的に、杉山和一記念館2階に設置されました。それゆえ、鍼灸あん摩は墨田区に縁のあるヘルスケア産業でもあるとして、墨田区より「小さな博物館」に認定され助成されています。

展示物には、杉山流あん摩術を伝える古文献(『杉山流三部書』『杉山真伝流』全巻など)を中心に、杉山和一が学んだ江戸前中期の古文献(『鍼灸大和文』『明堂灸経』『黄帝内経素問・霊枢』『難経』『千金方』『類経』など)とともに、江戸期に出版・製作された文献類、経穴人形、経絡図、鍼道具類などを展示しています。あわせて明治・大正・昭和期の鍼灸あん摩に関する諸文献も収集展示しています。

正面に展示されている、杉山検校を庇護された5代将軍綱吉公直筆の「大弁才天」掛軸とともに、これらの歴史的文物をご覧ください。

ご覧の皆様へ

杉山検校は、江戸時代前期に日本鍼灸の最大の特長である「管鍼術」という管に鍼を入れ刺入・施術する方法を創始した人物です。また盲人であった彼は、視力障碍者が鍼灸あん摩を生業として広く社会に貢献し生活できるようにと、世界初の学校と制度を確立しました。

江戸時代に日本の文化・社会は大きく発展し、今日の礎を築きました。医療もまた然りです。そうした中で、杉山検校の果たした役割は極めて大きく、日本の偉人の一人といえるでしょう。

今日、鍼灸あん摩は日本・中国・韓国にとどまらず、世界中の人々の健康を支えるヘルスケア産業となっています。そして管を用いた刺鍼法は世界中に広がっています。そのルーツがこの地であることに私たちは誇りと自負をもって後世に伝えたいと思っています。鍼灸あん摩マッサージに関わる方々、視力障碍者の方々は勿論のこと、歴史と文化に触れたいと思われるお子様や皆様にも、ぜひ一度足を運んでご覧いただきたいと存じます。

活動内容

当博物館は、杉山検校の業績と文献の保存、および日本の鍼灸あん摩に関する全般な資料の収集保存と公開を行っています。展示室の公開は、休館日である金曜日と年末年始を除き、午前10時から夕方4時まで開館しております。

これまで、鍼灸あん摩に関わる諸々の文物の収集・整理・修復・公開の活動を行ってきた他、展示内容をパネルに紹介し、外国の方々にも見ていただくための英文化、視力障碍者のための音声化を進めて参りました。また、検校装束を複製しました。鍼灸関係者からは、貴重な昭和期の鍼道具類、経絡治療のモデルとなった八木下勝之助翁の遺品類、経絡人形、経絡経穴図、文献類などが寄贈されており、適宜展示しております。

鍼灸あん摩という職業は、庶民的で身近な存在であったにもかかわらず、社会的認知度には欠け、これまで資料が不足してきました。今後とも収集に努めますとともに、関係各位からの資料および情報のご提供をお願いします。

最後に

皆さんがお疲れになった時、あん摩マッサージの施術で癒やされた方は多いでしょう。医療を受けても痛みや不快な症状が改善されなかった時、鍼灸治療で救われた方も多いでしょう。今日、鍼灸あん摩マッサージは、現代医療の代替医療とされ、また世界的にも統合医療の一環として重要視されています。東洋医学は中国を発祥としつつ、独特の医学体系を発展させながら、日本の文化と風土の中に根付いてきました。杉山検校は『三部書』を著すにあたり、「竜は一滴の水を以て世界を潤し、人は石火の微なるを以て大火と為す。この書は短しと雖もその人を得るときは、則ち天下に広めんこともまた成るべし」と言いました。またその施術にあたっては、「臨機応変、医は意なり」と貴賤に拘わらず治療を施しました。その心中には若き日に絶望から救われた、江ノ島弁才天信仰が貫かれています。辻々に江ノ島道の道標を立て、海難防止の竜灯を建て、江ノ島の御宮を建立したのも杉山検校です。江戸時代に生きた偉人の心と、江戸の町に暮らした人々の生活を垣間見ながら、楽しくご覧ください。